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[05]少女の記憶

2015.07.26 (Sun)
研究所に残された少女の記憶。
いつの日かどこかで少女が思慮したものを言語化したデータである。

[00]
研究所の人間は私一人で十分。
まさか、あの問題も解決できなかったなんて。

[01]
この青年はリッツというのね。
曰く、私の秘書らしいけど。
貴方からはあまり知性を感じない。

[02]
世界は私に期待を寄せている。
申し訳ないけど、応える気は微塵もないわ。
自由の広場で遊んでいたいの。

[03]
研究は面白い。
誰もしらない、真実への扉。
その先には何が待っているの?

[04]
リッツがコーヒーを淹れてくれた。
私に気を遣っているつもりなのかしら。

[05]
コーヒーはどうしてまずいの。
煙が立ったかのような過剰な香り、きつい苦味、独特の舌触り。
飲むとお腹が痛くなるし、あまりいいことはない。

[06]
コーヒーの表面に映る光から糸状の新しい物質を生成できた。
手で触れることができ、ネオンライトのように光る性質がある。
非常に軽く浮遊性がありながら、その剛性が極めて高い。

[07]
奇妙な性質を見て、大発見だと騒ぐリッツ。
ひとまず、コーヒーがまずくて良かったわ。
リッツに感謝する気は無いけれど。

[08]
例の糸は作り手のイメージを反映するように動作をする。
それは頭の中で編み物をするような感覚。
糸のどの点で折れ曲がり、どう湾曲するかのみ、操作が可能。

[09]
糸の挙動の性質を利用して、クマのぬいぐるみを生成できた。
歩く、走る、浮遊するなど様々な機能を実装できた。
我ながらとても可愛らしい動きをする。

[10]
奇妙な糸から生成されたものをMECHAと呼ぶことにする。
リッツは全自動洗濯機だの、全自動掃除機だの言っているが気にしないことにする。
あなたは適切なお茶菓子を私に用意するだけでいい。

[11]
MECHAの作り方は簡単。
コーヒーに、ミルクを混ぜる。
あとは、愛を少々。

[12]
愛を受けたモノは愛の形をなぞるようにして、美しい道を歩む。
人という枠に収まらない、万物における共通原理。
これは、私が誇れる研究の成果。

[13]
もし、MECHAが世に普及すれば人々は働かなくて済む。
かつてない柔軟性・生産性を誇る革命的な発明と言える。
こんなもの、世に放つ訳にはいかない。

[14]
MECHAの原理を仕方なしにリッツに説明した。
興味津々で聞いてくれてるのはいいんだけど…
彼は多分何も分かってくれていない。

[15]
リッツが最近よく話しかけてくる。
間違えて粘土を食べてしまったらしい。
それにしても、ミルクレープは甘くて美味しい。

[16]
リッツは所内で虐めを受けているようだ。
私の秘書という立場を羨む故かしら。
申し訳ないけど、研究を志す者が他人のことを気にかけることはない。

[17]
コーヒー豆が切れてなくなったらしい。
リッツは、紅茶を淹れてくれた。
生まれて初めてミルクティと言うものを飲んだ。

[18]
おいしい…!!
こんなにおいしい飲み物があったなんて。
ミルクティーはかつての様々な茶菓子の中でも群を抜いている。
私は彼にはじめて、おいしいと伝えた。
彼はどうしてかしら、泣いていた。

[19]
ミルクティはおいしい。
MECHAは優れている。
これらは真であり、未知の世界の扉を開く鍵となる。

[20]
リッツの様子が明らかにおかしい。
薄汚れ、傷んだ白衣を身に纏い、目元には痣がある。
どうしたの?ミルクティは…?

[21]
リッツは声を震わせていた。
もっと華やかで可愛らしい格好をしてという。
研究よりももっと、自分を大切にしてという。

[22]
夏は海を泳いで、冬はあったかいこたつでみかんを食べる。
私と同じくらいの年の女の子はみんな毎日学校へ行き、
仲間と一緒に学んだり遊んだり、運動したり食事をしたりするんだという。
私はただ聞くことしかできなかった。

[23]
MECHAに人体を埋め込む、生体実験。
リッツはこれをやりたいと言う。
死ぬ可能性が極めて高いというのに。

[24]
リッツは、思い残すことはないと言った。
なぜかは聞かなかった。
実験に成功したらハワイへ行きたいと言った。
私は、頷くだけだった。

[25]
この生体実験には未知の可能性を秘めている。
その先に何があるのかは誰もわからない。
成功条件はどれだけ計算しても導かれない。

[26]
実験の成功を祈った。
リッツに編みこまれる光の糸。
彼は光の下で微笑んでいた。

[27]
人体を埋め込む実験は失敗に終わった。
MECHAとしての最低限の機能をも有さない。
例の研究員は【死】を迎えた。

[28]
涙が溢れてきた。
【死】とは何か。
覆せないものなのか。

[29]
何事もなかったかのように研究所は動く。
明日もきっとそう。
その先も、ずっと。

[30]
世界には冷たい空気が流れている。
【死】とは何か。
私にも訪れるのかしら。


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